見付40mmの薄さが生み出す、
大胆かつ繊細なデザイン。
集合住宅でのルーバー利用
INTRODUCTION
株式会社トーシンパートナーズが手がける、投資用マンションブランド「ZOOM」。設計を手がけたキー・オペレーションの小山代表は、「ZOOM横浜関内」において、極限まで薄いHPC®を活用してリズミカルなファサードを作り、高いデザイン要求に応えた。2021年度グッドデザイン賞受賞。郡家コンクリート工業製作のHPC®は、すべてのルーバーと玄関エントランス、ロビーに設置されたモニュメントに使われている。
株式会社KEY OPERATION
一級建築事務所
代表 小山光さん
1970年東京生まれ。1994年東京都立大学工学部建築学科卒業。1996年ロンドン大学バートレット校建築修士修了。1998年東京工業大学理工学研究科建築学修士修了。デビッド・チッパーフィールド・アーキテクツなどのイギリスの建築設計事務所で7年ほど実務経験を積み、イギリスの建築家の資格を取得。2003年からZara Japanの店舗開発部長としてZaraの店舗開発に関わり、2005年にキー・オペレーション設立。集合住宅、オフィス、店舗、テナントビルなどの商業施設や霊園まで、多くのビルディングタイプの設計にたずさわる。
一枚ずつ違う表情が面白い
グッドデザイン賞受賞、おめでとうございます。現地で建物を見学し、そのインパクトに驚きました。
小山:印象を作っている大きな要素は、素材感だと思います。金属のようにツルツルではなく、コンクリートらしい荒れた感じで。一目でコンクリートとわかるのに、薄さにギャップを感じて、違和感が記憶に残るのかもしれません。
コテ面とベッド面でも、微妙に表情が違いますね。
小山:コンクリートの製造工程によって変わってくるのですが、今回は意匠としても生かしました。光が当たる面と影になる面で印象は異なりますし、状態によって1枚ずつの変化もあって、多彩な表情を見せてくれます。
「ZOOM横浜関内」の設計テーマを改めて聞かせてください。
小山:ZOOMシリーズは単身者向け分譲マンションです。いわゆるワンルームマンションというのは、小さなユニットが連続し、バルコニーが表側に出てきて、それがマンションの佇まいを決めてしまいます。そこで、私たちが手がけたZOOMシリーズ(ZOOM戸越銀座、ZOOM横浜桜木町)は、バルコニーをいかに整理するかに重点を置きました。ZOOM戸越銀座では、水平のラインを強調し、バルコニーは金属のフィンを黒くして存在感を消すことで、面の印象を作りました。今回のZOOM横浜関内では、HPC®を使って、その考え方を発展させたものです。
外から見た時と部屋の中から見た時とで、印象が大きく違いました。
小山:そうなんです。外観はルーバーが細かく立ち、閉鎖的に見えますが、中から見ると圧迫感がありません。それは、見付が40mmというコンクリートにしては驚異的な薄さが効いています。外から見ると、建物からある程度距離があるので、ルーバーに奥行きがあることで面が強調されます。しかし中から見ると奥行きはほとんど感じず、見えるのは小口部分のみです。存在が消えてくれるんですね。通常は、内装のスケールの中に都市的なスケールのものが入ってくると違和感があるのですが、40mmという絶妙な見付が、2つのスケールをうまく繋いでいると思います。
デザインと機能、メンテナンス性の高さを両立
HPC®をどのように知り、採用いただいたのでしょうか?
小山:細矢さん(細矢仁建築設計事務所・HPC沖縄アドバイザー)の沖縄での事例を見て、HPC®は前から気になっていました。妹島さん(妹島和世建築設計事務所)の「梅林の家」をコンクリートで作ったような印象で、この素材をいつか使ってみたいと思っていたのです。ル・コルビュジェのブリーズ・ソレイユ※も念頭にありました。しかしあの薄さは、現場打ちのコンクリートではできない。そこで、細矢さんに相談し、構造的な理解を深め、打設の様子なども見て、採用を決めました。
HPC®に対する、デベロッパー様の反応はいかがでしたか?
小山:ZOOMシリーズは投資用マンションであり、オーナーがステータスを感じられる建物が求められます。単純にコストだけを考えれば、アルミや金属でファサードを作った方が有利なのですが、ZOOMシリーズに対する強いこだわりのおかげで、HPC®を活用できました。
小山:また、メンテナンス性の良さも、オーナーへのアピールポイントとして有効でした。金属パネルのように腐食しないコンクリート製のHPC®パネルは、メンテナンスの負担も下げられます。
施工時に難しかった点はありますか?
小山:金物は事前に細部まで検討しておかないといけませんが、細矢さんにいろいろと助けてもらいました。あとは、大きいものの場合取り回しが大変になるので、打設する前に一部設置して入れたりもしています。小さいものなら、通常のコンクリートより薄くて軽いので、人の手で設置しやすいですね。
コンクリートの使用量が少ないため、CO2削減にも貢献
小山さんが考える、コンクリートという素材の魅力は何でしょうか?
小山:素材をそのまま、むき出しで見せられるところじゃないでしょうか。表現のために〇〇調といったフェイクなものを作り込まなくてよく、バリエーションは中の骨材や色粉、削り方などで作れます。レジデンス系は構造自体がコンクリートになることがほとんどなので、同じ素材で統一できるメリットもあります。
今回使ってみて感じた、HPC®のメリットとデメリットを教えてください。
小山:同じ強度のコンクリートを薄く作れるということは、それだけコンクリートの使用量が減らせるということですから、重量やコスト、CO2削減の観点でもメリットは多くあります。また、鉄筋がなく、留め具以外に金属を使わないため、サビに強いのも大きなメリットです。デメリットは、まだ構造材としての認定は取れていないので、使用用途が限られることでしょうか。構造材として使えるようになると、またたくさんのアイデアが浮かんできます。
HPC®や、郡家コンクリート工業への今後の期待を聞かせてください。
小山:郡家コンクリート工業さんには、とても粘り強く、真摯に対応いただきました。今回のグッドデザイン賞受賞や、デベロッパーの高い評価も、HPC®あってのことです。HPC®には構造材として使えるようになることを期待しつつ、それ以外でも、コンクリートという素材を追求して表現したいときは、また相談させていただければと思います。
本日はどうもありがとうございました。
郡家コンクリート工業
常務 川本富二男
株式会社キー・オペレーションの小山先生には、まだ新素材のHPC®に当初より興味を持っていただき、本州では初となる大型案件での採用となりました。パネル幅985、895、535、350、225の5種類を、各階層ごとにパネル高を合わせたり、手摺などの干渉部分には切り欠き部を設け、幅広のパネルは躯体打ち上げ前に設置するなど、ゼネコン様とも入念な製造、納入計画を立て、予定通りの搬入ができました。設置は上下2点支持とし、断面40mmの中に納まる特注金具を埋込み、躯体側に埋め込んだインサートとボルトで強固に2か所ずつ固定しました。小山先生の細かなご指摘は、私たちにとってこれまでのモノづくり屋としての考え方を変えるものでした。見てくれの良さだけでなく、設計者・事業主様の建物に対する思いやその背景までをモノづくりに込めることで、真に喜んでいただけるのだと大変勉強になりました。
また2021年3月の内覧会にお招きいただき、受付で「HPC®の宣伝をしっかりしてください」と言われた時には、涙がこぼれる思いがしました。コロナ禍にも関わらず、2日間の内覧会は、業界の方に多くご来場いただき、HPC®に興味を持っていただきました。さまざまな意味で、とてもとても思い出深い現場となりました。小山先生、現場所長の畑中さんにはたいへん感謝しています。
寸法や表面仕上げ、取り付け仕様など、
用途に応じてきめ細かく対応いたします。
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